研究テーマ

二次元エリプソ計測器開発(エリプソ顕微鏡)

IMAGING ELLIPSOMETRY (ELLIPSO-MICROSCOPE)

現在,光学薄膜や半導体デバイスに対する高精度な計測技術の需要が高まる中で,特にエリプソメトリを用いた非破壊・非接触での膜厚・光学定数の解析技術が注目されています.

エリプソメトリとは,偏光した光を試料に当て,反射後の偏光状態の変化を測定することで,薄膜の厚さや屈折率などを高精度に評価する手法です.

しかし,従来のエリプソメータは測定点が一点に限られることが多く,面内分布の取得が困難であること,また測定精度や角度分解能に限界があることが課題とされているため,新たなエリプソメトリ手法の開発が求められています.

そこで私たちは,二次元的に広がる視野で測定を可能にする二次元エリプソ計測器の開発を行っています(L. Jin, Rev. Sci. Instrum., 2017).

本計測器は,撮像素子として高感度CMOSカメラを用いることで,広い面積にわたる反射光の偏光情報を同時に取得可能とし,空間分解能を保ちながら高速かつ高精度な測定を実現しています.

また光学系には回転補償子を導入し,時間的変調を加えることで,ΔおよびΨの精密な取得を可能としています.

現在は,装置全体の較正手法や解析アルゴリズムの高度化を進めることで,材料評価やプロセスモニタリングへの応用を目指した実用的な二次元エリプソメータの実現に取り組んでいます。


発光素子開発(ポーラスシリコン)

POROUS SILICON

現在,半導体の需要が拡大する中で,発光ダイオード(LED)などに用いられる発光素子には,ガリウムヒ素(GaAs)やインジウムリン(InP)といった高い発光効率を有する化合物半導体が主に使用されています.

しかし,これらの材料はレアメタルを含むため非常に高価であり,さらに発がん性などの環境・健康面での懸念も指摘されています.そのため,より安価で環境負荷の少ない代替材料の開発が求められています.

そこで私たちは,シリコンを発光素子として実用化するための研究に取り組んでいます.

シリコンは地殻中において酸素に次いで多く存在する元素であり,資源的に豊富かつ低コストで利用可能です.また生体適合性も高く,環境への影響が少ないことから,次世代の材料として注目されています.

本来,シリコンは間接遷移型半導体であるため発光効率は非常に低いのですが,電気化学的な陽極酸化処理を施すことで表面が多孔質化し,発光特性を示すようになります.この多孔質化したシリコンは「多孔質シリコン(ポーラスシリコン)」と呼ばれ,可視光領域での発光が確認されています.

現在,私たちはこのポーラスシリコンの発光効率をさらに高める技術の開発を進めており,安価かつ環境調和型の発光素子の実現を目指しています.


 

高周波強力超音波照射によって液体中に誘起される屈折率変化

超音波による屈折率制御と可変焦点光流体レンズの開発

Refractive Index Control using Ultrasound for Varifocal Optofluidic Lenses

一般的なマシンビジョン(産業ロボットの視覚系)に搭載されているカメラモジュールでは,複数枚のレンズをアクチュエータなどの機械的可動部によって移動させることで,光学制御を行っています.

しかし,これらのカメラモジュールは機械的可動部を有するため,将来的な小型化・薄型化および高速化には限界があり,更なる技術革新が求められています.

一方,光の伝搬経路は,光路上の媒質の屈折率を圧力変動や温度変化などの外部刺激によって時間的・空間的に変化させることで制御することが可能です.

中でも媒質中を伝搬する超音波のような周期的振動は,媒質中の屈折率を瞬時かつ可逆的に変化させることができるため,高速な光制御手法として注目されています.

そこで私たちは超音波に着目し,高周波かつ強力な超音波照射によって液体中に巨大な屈折率変化領域が誘起される新たな現象を発見しました(Harada, Appl. Phys. Lett., 2024).

現在,この現象を応用することで,機械的可動部を用いずに焦点制御が可能な可変焦点光流体レンズの開発に取り組んでいます.